ファンドの成功報酬が発生する条件と利益分配の順番を、実際の契約条項から解説
ファンドの利益分配は、解説書などでは、次の4段階で説明されることがあります。
投資元本の返還 → 優先分配 → GPキャッチアップ → LPとGPへの残余利益分配
ハードルレートを8%、最終的な分配割合をLP80%・GP20%とするモデルは、海外のPE・VCファンド実務をベースとした典型例として、ウォーターフォールの説明によく用いられます。
一方、実際のLPA(ファンド契約書)では、必ずしもこの4段階がそのまま採用されているとは限りません。特に国内のVC・PEファンドや投資事業有限責任組合では、ファンドの性質や当事者間の交渉に応じて、優先分配を設けない、キャッチアップを置かない、累計分配額に応じてキャリーの割合を変えるなど、個別の設計が見られます。
したがって、教科書的なモデルと実際の契約書との違いは、直ちに契約設計の誤りを意味するものではありません。海外で用いられるモデルケースと、各ファンドが採用した個別の経済条件との違いとして整理する必要があります。
また、同じ「ハードルレート8%」「キャリー20%」でも、キャッチアップの有無や計算単位によって、GPがキャリーを受け取る時期と金額は大きく変わります。
本記事では、ウォーターフォールの基本的な計算過程を確認したうえで、実際のLPAを読む際に注意したいポイントを解説します。
本記事における「ハードルレート8%」「LP80%・GP20%」は、ウォーターフォールの仕組みを説明するためのモデルケースです。実際の利率や分配割合は、ファンドごとのLPAによって異なります。
1.キャリーとハードルレートとは
投資ファンドでは、運用成果に応じてファンド運営者が受け取る成功報酬を、一般に「キャリー」と呼びます。本記事では、投資家をLP、ファンド運営者をGPと表記します。
LPAには、GPへのキャリー分配を開始する条件として、一定の基準利率が定められることがあります。これがハードルレートです。
ハードルレートに基づいてLPへ先に分配される金額は「優先分配」と呼ばれます。ただし、優先分配はLPに一定の収益を保証するものではありません。あくまで、ファンドが回収した資金をどの順番で分配するかを定める契約上の仕組みです。
「ハードルレート」という言葉は、次のような異なる意味で使われることがあります。
- ファンド契約上の基準利率
- 事業会社が設備投資などを判断するための社内基準
- 運用チームが設定する目標利回り
本記事で扱うのは、1つ目の「ファンド契約上の基準利率」です。これは、GPへのキャリーをいつ開始するか、LPへの優先分配額をいくらにするかを計算するための基準です。経済理論から一つの正解が導かれるものではなく、最終的には当事者間の契約交渉によって決まります。
2.基本となる4段階のウォーターフォール
まず、ウォーターフォールの典型的なモデルを確認します。ここでは、説明を簡単にするため、次の条件を前提とします。
- 投資額:100
- 利益:20
- 回収額:120
- ハードルレート:8%
- 最終的な利益分配割合:LP80%・GP20%
- GPキャッチアップ:100%
第1段階:投資元本の返還
最初に、LPが拠出した投資元本100を返還します。この段階では、回収資金の100%がLPへ分配されます。元本返還後に残る利益は20です。
第2段階:LPへの優先分配
次に、ハードルレート8%に基づく優先分配をLPへ支払います。単純化したモデルでは、優先分配額は次のとおりです。
投資額100 × 8% = 8
この段階でLPが利益から8を受け取り、残る利益は12となります。
第3段階:GPキャッチアップ
次に、GPの累計取り分を、最終的なキャリー割合である20%に近づけます。LPがすでに受け取った優先分配8を、LP80%・GP20%の比率に置き換えるために必要なGPの取り分は、次のように計算できます。
8 ÷ 80% × 20% = 2
したがって、GPキャッチアップとしてGPへ2を分配します。100%キャッチアップとは、この調整額に達するまで、次に分配可能となる利益を100%GPへ分配する方式です。この段階を終えた時点では、LP8、GP2となり、両者の割合はLP80%・GP20%です。
第4段階:キャッチアップ後の残余利益分配
利益20のうち、優先分配8とGPキャッチアップ2を分配したため、残余利益は10です。
20 − 8 − 2 = 10
この10をLP80%・GP20%で分配すると、LPは8、GPは2を受け取ります。最終的な利益配分は、LPが16、GPが4となり、利益全体20に対する配分もLP80%・GP20%となります。
段階 | LP | GP | 残額 |
優先分配 | 8 | 0 | 12 |
GPキャッチアップ | 0 | 2 | 10 |
キャッチアップ後の残余利益分配 | 8 | 2 | 0 |
合計 | 16 | 4 | ― |
ここで示した8%、80%・20%、100%キャッチアップは、計算構造を説明するための一例です。実際のLPAでは、利率、分配割合、キャッチアップ率、計算方法が異なることがあります。
3.キャッチアップの有無でGPの取り分はどう変わるか
同じ「ハードルレート8%、キャリー20%」でも、GPキャッチアップの有無によって、GPが受け取る金額は変わります。
① 基準を超えた利益だけを対象にする方式
この方式では、LPへの優先分配後にGPキャッチアップを行いません。投資額100、利益20の場合、まずLPへ優先分配8を支払います。残った利益12をLP80%・GP20%で分配します。
- LPへの優先分配:8
- LPへの残余利益分配:12 × 80%=9.6
- GPへの残余利益分配:12 × 20%=2.4
最終的な利益配分は、LPが17.6、GPが2.4です。この方式では、GPはハードルレートを超えた利益部分からのみキャリーを受け取ります。
② 基準達成後は利益全体を対象にする方式
この方式では、LPへの優先分配後にGPキャッチアップを行います。
- LPへ優先分配8を支払う
- GPキャッチアップとしてGPへ2を支払う
- 残った利益10をLP80%・GP20%で分配する
最終的な利益配分は、LPが16、GPが4です。キャッチアップによって、GPの最終的な取り分は利益20の20%となります。
項目 | なし | あり |
LPへの優先分配 | 8 | 8 |
GPキャッチアップ | なし | 2 |
キャッチアップ後の残余利益 | 12 | 10 |
LPへの残余利益分配 | 9.6 | 8 |
GPへの残余利益分配 | 2.4 | 2 |
LPの最終的な利益配分 | 17.6 | 16 |
GPの最終的な利益配分 | 2.4 | 4 |
この例では、GPの取り分に約1.7倍の差が生じます。キャッチアップありの方式では、ハードルレート以下の利益部分についても、キャッチアップを通じてGPの取り分が調整されます。
ただし、ハードルレートの意味がなくなるわけではありません。LPへの優先分配が完了するまでGPへのキャリー分配を開始しないという点で、GPの分配開始時期を遅らせる機能が残ります。
LPAを確認するときは、ハードルレートとキャリー割合だけでなく、GPキャッチアップの有無、キャッチアップ率、対象額の計算方法、キャリーの対象範囲、最終的な利益配分割合を一体として読む必要があります。
ここまで説明したのは、ハードルレートとGPキャッチアップを備えたモデルケースです。しかし、実際のLPAには、ハードルレートやキャッチアップを設けず、元本返還後の利益を直ちにLPとGPへ分配する設計もあります。
4.ハードルレートを設けないファンド
実際の契約書には、LPへの優先分配を設けていない例もあります。例えば、次のような3段階の分配設計です。
- 累計分配額が投資額の100%に達するまで、LPへ100%分配
- 100%を超えて200%に達するまで、LP80%・GP20%
- 200%を超えた部分は、LP70%・GP30%
この場合、元本を回収し終えた時点から、利益の最初の1円についてキャリーが発生します。LPに対する年8%などの優先分配はなく、GPの取り分を後から調整するキャッチアップもありません。
これは「ハードルレートを達成した後、利益全体をキャリーの対象にする方式」とは異なります。そもそも、達成すべき基準利率が設定されていないからです。代わりに、高い収益を実現した部分についてGPの取り分を20%から30%へ引き上げています。
投資額100、累計分配額250として、30%が200%を超えた部分だけに適用されると読む場合、GPの取り分は次のとおりです。
- 100%まで:GP 0
- 100%超~200%:GP 20
- 200%超の50部分:GP 15
- 合計:GP 35
同じ利益150に対し、利益全体の20%をGPへ配る設計ならGPの取り分は30です。この例では35となるため、分配条項だけを見れば、GPへの成果連動報酬を強めた設計といえます。
上記の分配割合は、当該モデルの個別の設計です。80%・20%や70%・30%が、すべてのファンドに共通する固定的な割合という意味ではありません。キャリー割合や段階的な引上げ条件は、ファンドごとに確認する必要があります。
5.ファンド全体で計算するか、案件ごとに計算するか
キャリーの金額と発生時期を左右するもう一つの要素が、計算単位です。主な方式は、ファンド全体で計算する方式と、投資案件ごとに計算する方式です。
ファンド全体で計算する方式
すべての投資案件の損益を合算し、LPが拠出した資金を回収した後にキャリーを計算します。損失が出た案件と利益が出た案件を通算してから計算するため、一般にGPへのキャリー発生は遅くなります。
投資案件ごとに計算する方式
個別の投資案件ごとにキャリーを計算します。ある案件の売却価額が取得価額を上回れば、ほかの案件の状況にかかわらず、その時点でキャリーが発生する可能性があります。
この方式ではGPが早くキャリーを受け取れる反面、その後の案件で損失が出ると、GPが結果的にキャリーを受け取りすぎることがあります。その調整に使われるのがクローバック条項です。
クローバック条項では、返還額の上限、税金控除後の金額を基準にするか、誰が返還義務を負うか、返還義務がいつまで続くかを確認します。返還額に上限がある場合、GPが受け取りすぎたキャリーを完全には調整できない可能性があります。
6.「ハードルレート8%」だけでは判断できない
ファンドのハードルレートとしては、年8%という数字がよく知られています。しかし、8%という数字だけを見て「標準的な条件」と判断するのは適切ではありません。
同じ8%でも、契約条件によって最終的な分配額は変わります。
- 単利か複利か
- 計算開始日はいつか
- 日数計算を行うか
- GPキャッチアップがあるか
- ファンド全体と案件ごとのどちらで計算するか
- 途中の入出金をどのように反映するか
ハードルレートは、政策金利や企業の資金調達コストから自動的に決まるものでもありません。ファンドの投資方針、投資対象、運用期間、リスク、管理報酬などを踏まえた契約交渉によって決まります。
したがって、「8%だから標準」と考えるのではなく、利益分配の仕組み全体を確認する必要があります。
7.LPAで確認したい5つの項目
1.基準利率と優先分配の計算方法
利率の数字だけでなく、計算期間、単利・複利、日数計算、入出金の反映方法を確認します。
2.追加募集で参加した投資家の負担調整
後から参加した投資家が支払う調整額を、投資額、費用、利息相当額のどれとして扱うかを確認します。
3.回収資金を再投資できる範囲
再投資が認められる期間、対象となる回収資金、金額の上限を確認します。これらは、ファンドが運用できる総額やLPの資金拘束期間に影響します。
4.クローバック条項
キャリーの返還条件、返還額の上限、税金の扱い、返還義務を負う者を確認します。
5.業務報酬と利益分配の区分
GPへの支払いが、運用業務の対価としての成功報酬なのか、出資者として受け取る利益分配なのかを確認します。税務上の取り扱いは、契約書に記載された名称だけでは決まりません。受領者がファンドの出資者であるか、分配割合に合理的な理由があるかなど、実態に基づく検討が必要です。
なお、契約上は分配できる計算結果となっても、法令上の分配可能額を超えて実際に支払うことはできません。契約上のウォーターフォールと法令上の制限は、分けて確認する必要があります。
8.まとめ
キャリーの条件は、「ハードルレート8%」「キャリー20%」といった数字だけでは判断できません。
重要なのは、LPAが次の事項をどのように定めているかです。
- どの条件を満たしたらキャリーが始まるか
- どの利益をキャリーの対象にするか
- どの順番で誰に分配するか
- ファンド全体と案件ごとのどちらで計算するか
- GPが受け取りすぎた場合に、どのように調整するか
教科書で示される4段階のウォーターフォールが、そのまま実際のLPAに当てはまるとは限りません。専門用語や表面的な割合だけで判断せず、手元の条文を計算式と分配順序に置き換えて読むことが、キャリーを正確に理解するための出発点です。
担当しているファンドのLPAには、LPへの優先分配が定められているでしょうか。まずは利益分配条項を開き、キャリーが「いつ」「いくら」発生する設計なのかを確認してみてください。
よくある質問
この記事の監修者

ファンドキー株式会社 公認会計士
坂入 翔一朗
EY新日本監査法人にて日系・外資系の金融機関と投資ファンドの会計監査に従事。日本基準・US-GAAP・ファンドの会計実務を身につけた後、株式会社PrivateBANKへ参画。VCファンドの設立・ファンドレイズ・投資実行・監査対応まで、フロントからバックオフィスを経験。
