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投資事業有限責任組合の決算実務 ~作成書類とスケジュール~

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投資事業有限責任組合の決算実務 ~作成書類とスケジュール~

投資事業有限責任組合(LPS)の決算は、事業会社の決算とはかなり様子が違います。売上原価もなければ、棚卸もありません。代わりに、投資先の評価と、組合員への持分の割り振りという、事業会社の経理では出てこない作業があります。

当社はファンドアドミニストレーター として、組合決算をお預かりしています。初めてファンドを立ち上げたGP(無限責任組合員) の方から最も多くいただく質問は、いつも同じです。

「決算って、いつ何から始めればいいんですか」

制度としての枠組み——LPS法や同法施行規則(旧・投資事業有限責任組合会計規則) が何を要求しているか——については、当社の別記事で条文に即して整理しています。この記事はその先で、実際の段取りを扱います。何を作り、どの順番で進め、どこに時間がかかるのか。初年度の決算を迎える前に、全体像を掴んでおくための記事です。

1. 起点は「事業年度経過後3か月」

まず動かせない期限を押さえます。

LPS法第8条は、GPに対し、毎事業年度経過後3か月以内に財務諸表等を作成し、公認会計士または監査法人の意見書とあわせて主たる事務所に5年間備え置くことを求めています。

ここから逆算すると、決算作業の実質的な持ち時間が見えます。3か月のうち、意見書を受け取るまでに監査法人の作業期間が必要です。その前に財務諸表の案が仕上がっていなければなりません。さらにその前に、投資先の評価が確定している必要があります。

つまり自由に使える時間は3か月ではなく、実質的にはその前半部分だけです。初年度にここを読み違えると、期限直前で監査法人と押し問答になります。

なお、意見書の対象となる書類の範囲は限定されています。この点を含む制度の詳細は、別記事をご覧ください。

2. 作成する書類の一覧と、それぞれの用途

LPSの決算で作る書類は、法定のものと、実務上必要になるものに分かれます。下表の「区分」欄に、その別を示しています。 


書類

区分

主な用途

貸借対照表

法定

組合の財政状態。分配の上限(未実現利益を除く純資産額) の判定にも使う

損益計算書

法定

組合の期間損益

業務報告書

法定

事業年度の運営状況

附属明細書

法定

上記の内訳

意見書(公認会計士・監査法人が作成) 

法定

貸借対照表・損益計算書とその附属明細書に対する意見 

組合員別持分計算書(法令上は附属明細書中の「組合員の持分に関する明細」) 

法定

各組合員の出資額、帰属損益、持分の状況

組合員所得計算書(組合員所得に関する計算書) 

法定

税務署への法定調書(所得税法第227条の2) 

税務参考資料

契約・実務

各組合員の税務申告の基礎

運用報告書

法定(金融商品取引法42条の7)※該当するGPのみ

組合員への報告

累積内部収益率

契約・実務

組合員への報告


特に税務参考資料(有限責任組合員) は、各LPが自社の税務申告に使います。この書類が遅れると、LP側の決算と申告が止まります。

また、組合員所得計算書の法定期限(所得税法227条の2、所得税法施行令353条の2)は次のうち、遅い方の日までに税務署長へ提出します。

  • 計算期間の終了日が属する年の、翌年1月31日
  • 計算期間の終了日の翌日から2ヶ月を経過する日

3. 投資先の評価を、どこで確定させるか

決算作業の中で最も時間が読みにくく、かつ全体の日程を決めてしまうのが、投資先の評価です。

上場していない投資先の株式には市場価格がありません。したがって、何らかの方法で価値を見積もる必要があります。投資は原則として時価で評価し(LPS法施行規則11条2項)、具体的な評価方法は組合契約の定めによります(同条4項)。そのため、 まず自分のファンドの契約が何を定めているかの確認から始まります。

実務上、時間がかかるのは次の点です。

投資先からの情報取得。 直近の決算数値、資金調達の状況、事業計画。投資先が自社の決算を締めていなければ、そもそも情報が出てきません。

評価の判断と根拠の整理。 直近の資金調達価格を使うのか、他の手法によるのか。減損の要否をどう判断するのか。判断そのものよりも、その判断を後から説明できる形に残す作業に時間がかかります。

監査法人との事前すり合わせ。 評価は監査で最も論点になりやすい領域です。決算が締まってから初めて評価方針を説明すると、そこから議論が始まってしまいます。

対策は単純で、評価に関する論点を期末を待たずに監査法人と共有しておくことです。大きな資金調達や業績の悪化があった投資先については、期中の段階で扱いを相談しておくと、決算期の負荷がまったく変わります。


4. 組合の主な仕訳——出資受け入れから分配まで

組合会計で頻繁に照会をいただくのが、出資金まわりの処理です。基本的な流れを整理します。

キャピタルコール(出資約束に基づく払込請求) による払込を受けたとき。 組合の現預金が増え、各組合員の出資金勘定が払込額の分だけ増加します。この時点で損益は生じません。資金の移動だからです。


期中に投資を実行したとき。 現預金が減り、株式が計上されます。

期末に評価を行ったとき。 評価額と帳簿価額の差が、未実現損益として認識されます。

投資先を売却したとき。 実現損益が確定します。

分配を行ったとき。 現預金が減り、各組合員の出資金合計が減少します。


ポイントは、すべての取引が最終的に組合員ごとの持分に跳ね返ることです。事業会社の経理であれば、仕訳を切れば決算書が出来上がります。組合員別の会計では、そこから組合員ごとの按分がもう一段あります。組合員の数が多いファンドや、出資時期の異なる組合員がいるファンドでは、この工程が決算作業の重心になります。

5. 監査法人とのやりとりで何が起きるか

意見書を取得するまでに、実際に発生するやりとりです。

監査計画の共有。 期末前に、監査のスケジュールと重点領域をすり合わせます。

資料の提出。 組合契約書、投資契約書、キャピタルコール通知、送金記録、投資先の決算資料、評価の根拠資料。求められる範囲は広く、まとめて用意しようとすると相当な工数になります。

評価に関する質問への回答。 前章のとおり、ここが最大の論点です。

指摘への対応と修正。 修正が入ると、財務諸表だけでなく組合員別の持分計算まで作り直しになることがあります。

負荷を下げる方法は一つで、期中から資料を整えておくことです。キャピタルコールの通知書と送金記録を都度ファイリングし、投資実行時に契約書と評価の初期資料を揃えておく。決算期にまとめて遡って集めるのが、いちばん時間を食います。

6. 決算スケジュールの立て方

期限から逆算した目安です。事業年度末を起点にしています。

時期

作業

期末前

監査法人との計画共有、評価論点の事前相談、期中資料の整備状況の確認

期末直後

現預金・投資残高の確定

期末後〜1か月

投資先の評価、評価根拠の整理、財務諸表案の作成

1か月〜2か月

監査対応、指摘への対応、組合員別持分計算書の作成、組合員所得計算書の作成・税務署への提出(期限は決算期により異なる。第2章参照) 

2か月〜3か月

意見書の受領、財務諸表等の確定と備置、組合員への財務諸表等・税務参考資料の送付 


初年度に押さえておきたいのは、投資先への情報依頼を期末前に出すことです。投資先の側にも自社の決算があるため、依頼が遅れるほど回答が遅れます。ここが遅れると、後工程がすべて後ろにずれます。

7. まとめ

LPSの決算は、事業年度経過後3か月という期限のなかで、投資先の評価、財務諸表の作成、監査対応、組合員ごとの持分計算と書類作成を回す作業です。

工程のなかで日程を左右するのは、投資先の評価です。そしてその評価は、投資先からの情報が届かなければ始まりません。つまり決算の成否は、期末を迎える前の段取りでほぼ決まります。

初年度は、余裕を持って始めたつもりでも足りなくなることがほとんどです。監査法人との事前のすり合わせと、期中からの資料整備が大事になります。

これから初回の決算を迎えるファンドをお持ちであれば、まず監査法人と評価論点の相談日程を押さえるところから始めてみてください。

当社はファンドアドミニストレーター として、組合会計・決算・監査法人対応・組合員向け報告などの実務をお預かりしています。決算体制の設計や業務負荷の見直しについては、お気軽にお問い合わせください。

免責事項

  • 本記事は、2026年9月時点で確認できる法令・公表資料にもとづく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務・会計上の助言を構成するものではありません。個別案件への適用については、弁護士・公認会計士・税理士その他の専門家にご確認ください。
  • 掲載内容については正確性・最新性の確保に努めていますが、これらを保証するものではありません。
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よくある質問

この記事の監修者

中辻 仁

ファンドキー株式会社 公認会計士

中辻 仁

EYにて、会計監査、財務デューデリジェンスなどのM&A業務に従事。その後、エネルギー会社では、ガス・油田のM&Aや在外子会社の管理を担当。同社英国子会社に出向し、決算、ファイナンス、M&A推進、事業管理などの業務を担当。帰国後は、スタートアップにジョインし、IPO業務、VCや銀行調達の業務、事業開発に貢献。